ポータブルスキルとは?用語解説のほか人事・採用における活用方法もご紹介
先行き不透明で変化の大きい「VUCA時代」と言われる今、多くの人材にとってキャリアの考え方が変わってきています。そこで、注目されるようになったのが、今回取り上げる「ポータブルスキル」です。
この記事では「ポータブルスキルとは何なのか」「どのような活用できるのか」について、具体例を交えてご説明します。
4大経営資源の一つが「ヒト」である以上、社員のスキル向上は重要度が高く、企業も決して無視できないこの考え方。人材採用・育成の観点から「ポータブルスキル」についてお伝えします。
目次[非表示]
- 1.ポータブルスキルとは?
- 1.1.厚生労働省が提唱する定義
- 1.2.アンポータブルスキルとは
- 1.3.テクニカルスキルとは
- 2.ポータブルスキルに注目が集まる背景
- 2.1.終身雇用制度の崩壊
- 2.2.VUCA時代への対応
- 2.3.採用市況の売り手市場化
- 3.ポータブルスキルの要素
- 4.企業がポータブルスキルを重視するメリット
- 4.1.採用に活かせる
- 4.2.マルチに活躍する人材を育成できる
- 4.3.リーダー候補を育成できる
- 4.4.生産性の向上が期待できる
- 5.ポータブルスキルの活用方法
- 5.1.採用基準の適用
- 5.2.人事評価制度への組み込み
- 5.3.研修制度の見直し
- 6.まとめ
ポータブルスキルとは?
「ポータブル(portable)」とは英語で、「携帯用の」「持ち運びできる」という意味です。「ポータブルスキル」は、業種や職種にかかわらず、どのような環境でも活用できるビジネススキルのことを指します。例えば、コミュニケーション能力、協調性、論理的思考力、課題解決能力などが当てはまります。
厚生労働省が提唱する定義
厚労省によれば、ポータブルスキルとは「たとえ業種や職種が変わっても持ち運びできる職務遂行上のスキル」のことです。
特に人事・経理などホワイトカラー職種は職業能力を測ることが難しいことから、キャリアチェンジやキャリア形成を検討する機会をつくるために用いられた考え方です。
例えば人事職であれば、ベテランの方でも新任の方でもスキルとしては「人材の採用ができる」となります。しかし、この言葉では「得意な工程はどこなのか」「各工程どの程度得意なのか」が分かりません。
その整理ができるのが、ポータブルスキルという概念です。9つの要素で構成されており、その詳細は下段でご説明します。
アンポータブルスキルとは
「アンポータブルスキル」とはポータブルスキルの対義語で、特定の企業や職種、業種でのみ活用できるスキルのことです。例えば、一部企業のみで使われるシステムの操作スキル、社風や組織文化を前提としたコミュニケーションスキルを指します。
テクニカルスキルとは
アンポータブルスキルと似た言葉に「テクニカルスキル」がありますが、こちらは例えば「仕業」など特定の業務に取り組むための専門知識や技術、資格のことを言います。ポータブルスキル、テクニカルスキル、アンポータブルスキルの順で活用できる範囲が広いイメージです。
ポータブルスキルに注目が集まる背景
多くの人材から注目を集める「ポータブルスキル」。もともとはミドル層向けに提唱されていましたが、現在は特に若手人材からの注目度が高い考え方です。ここでは、なぜポータブルスキルが注目されるようになったのか、その理由や背景を詳しくご説明します。
終身雇用制度の崩壊
従来の「日本型雇用」では「今いる職場で役立つスキル」があれば評価されていたため、ポータブルスキルは重視されてきませんでした。しかし昨今、日本で一般的であった終身雇用制度や年功序列制度は一般的でなくなってきています。これは、日本経済の長期低迷により、企業が終身雇用を維持することが難しくなったことなどが影響しています。
欧米で主流であった「ジョブ型雇用」を導入する企業も増えた現代において、多くの人材にとってポータブルスキルの獲得は関心の高い話題です。職務内容に対して経験やスキルが見合った人材を採用するスタイルだからこそ、「どこでも通用するスキル」を証明できるかどうかが重要になってくるためです。ポータブルスキルは、転職が当たり前となった今、“転職力”とも言えるスキルです。
VUCA時代への対応
- Volatility(変動性)
- Uncertainty(不確実性)
- Complexity(複雑性)
- Ambiguity(曖昧性)
「VUCA」とは上記の頭文字を取ったもので、「先行き不透明で将来が予測困難であり、目まぐるしく変化していく状況」を指します。テクノロジーの発展、国際関係の変化、新型感染症の拡大。大手企業や有名企業ですらも、存続が危ぶまれる時代となりました。
社会の変化が大きいVUCA時代には、企業も事業やビジネスモデル、人材配置、ミッションなどを必要に応じて変えていかなければなりません。ポータブルスキルは、そのような環境の変化への対応ができるスキル。だからこそ、人材からの注目度が高いのです。
採用市況の売り手市場化
ここまで、ポータブルスキルが求職者から注目される背景についてご説明しましたが、企業からの注目度も高いです。というのも、採用活動に苦戦する企業が多い中、ポータブルスキルの考え方を活かすことが、応募や入社につながるかもしれないためです。
厚労省の調査によれば、2024年2月の有効求人倍率は1.26倍です。この「有効求人倍率」とは、有効求人数を有効求職者数で割った数値を指します。1倍より高ければ、求職者よりも採用したい企業のほうが多く、採用が難しい市況であるということです。10年以上前からずっと、こうした「売り手市場」が続いています。
▼有効求人倍率の推移
画像引用元:厚生労働省『一般職業紹介状況(令和6年2月分)について』
ここで2020年(令和2年)を見てみると、当時採用活動をストップする企業も増えた「コロナ禍」初期であったにもかかわらず、有効求人倍率は1倍以上です。すなわち、採用市況の「売り手市場」は社会変化を踏まえても、解消されづらい状況だということです。これは、少子化や高齢化が深刻な現代では、各業界での人手不足の問題が大きいためでしょう。
▼人手不足の動向
画像引用元:厚生労働省『2023年度第6回雇用政策研究会 関係資料集』
上記は厚労省の人手不足の動向調査ですが、コロナ禍で一時的に人手不足が解消されたものの、再び人手不足となってしまっている状況です。少子高齢化の傾向に歯止めがかからない以上、人手不足も解決の目途がありません。企業の人材獲得競争は今後さらに過激になってくるでしょう。
▼未経験者歓迎求人の割合
エン・ジャパン調べ
先ほど述べた問題から、採用が難しくなっているからこそ、まずは応募を集めるために、応募資格を緩和して間口を広げる企業が増えています。例えば、『エン転職』に掲載された未経験者歓迎求人の割合は、2023年時点で80%となっており、2020年から25%増加しています企業としては「即戦力となる経験者を採用したいが、まずは未経験者であっても採用を成功させたい」という考えです。
そのため、未経験でも活躍可能性が高い人材を獲得するために、「ポータブルスキル」を採用基準に用いる企業が増えています。例えば、営業経験がなくても「コミュニケーション能力」や「主体性」が高い人材を採用する、といったアプローチに切り替えるということです。
ポータブルスキルの要素
ここまで、ポータブルスキルの概要や注目される理由をご説明してきましたが、「なかなかイメージが湧きづらい」という方も多いのではないでしょうか。
そこで、厚生労働省が提唱するポータブルスキルの詳細と、社員がどこでも活躍できるように独自のポータブルスキルを制度化して育成・評価に取り入れている企業の例を紹介します。具体的なスキル要素も解説しておりますので、導入の参考にしてください。
厚生労働省が提唱するポータブルスキル
▼ポータブルスキルの要素
引用元:厚生労働省『ポータブルスキル見える化ツール(職業能力診断ツール)』
厚生労働省によればポータブルスキルは、「仕事のし方」「人との関わり方」の2種類に大別されます。その上で「仕事の仕方」に関しては5つ、「人との関わり方」に関しては4つ、合計9つのポータブルスキルがあると提唱しました。
「仕事のし方」は仕事のどの工程が得意かチェックするものであり、「人との関わり方」はマネジメントのほか、経営陣や上司、お客様など様々な人々を想定した対人スキルを指します。
エン・ジャパンが提唱するポータブルスキル
企業におけるポータブルスキルの考え方の一例をご紹介します。人材大手のエン・ジャパンでは、どこでも活躍する人材が持つスキルとして「CareerSelectAbility(R)」を提唱しています。「7つの考え方×4つの能力×4つの環境」を軸に、社員のポータブルスキル獲得を支援しています。
▼エン・ジャパンで使っている「考え方」「能力」の分類
【考え方】
「心を強める」考え方 |
自己変革性 |
目標必達性 | |
「心を広める」考え方 |
多様受容性 |
周辺変革性 | |
「心を高める」考え方 |
主観正義牲 |
自発利他性 | |
「三つの心」を支える考え方 |
Enjoy-Thinking |
【能力】
対人関係力 |
好感演出力 |
キモチ伝達力 | |
対人傾聴力 | |
他者活用力 | |
対人大善力 |
発想力(拡散思考) |
発想研磨力 |
問題発見力 | |
既存改善発案力 | |
新規アイデア創案力 |
論理思考力(収束思考) |
問題分析力 |
仮説検証力 | |
一般化力 | |
論理的表現力 |
組織貢献力 |
意志決定支援力 |
理念共創力 | |
理念伝導力 | |
人財マネジメント力 | |
組織標準化力 | |
組織目標推進力 | |
新規事業創出力 |
どこでも活躍できる人材にするために優先して育成したいスキル「CSA」について、エン・ジャパンの事例を交えて詳しく紹介した書籍もありますので、ぜひコチラをご覧ください。
企業がポータブルスキルを重視するメリット
どのような企業に行っても通用するポータブルスキル。社員にとっては「市場価値の向上」「将来への安心感」などのメリットがありそうですが、企業にはどういったメリットがあるのでしょうか。ここでは、ポータブルスキルを重視することで、企業にもたらされるメリットについてお話します。
採用に活かせる
上段で述べた通り採用難を迎える現代において、求職者のポータブルスキルに着目した採用を行なうことが有効です。例えばポータブルスキルに重きを置いて、その分職種や業種の経験を問わないことで、応募数を集めることができます。
それだけではありません。職種や業種に適した人材を採用する上でも、ポータブルスキルの考え方が活きてきます。そこで、求人専門のコピーライターとして4年間求人に携わってきた筆者から、各職種と相性の良いポータブルスキルをご紹介します。
例えば、営業職で「コミュニケーション能力」が必要なことは自明ですが、環境によって最も活かせるポータブルスキルは異なってくるでしょう。
メーカー営業の場合、取引先と何度も商談を重ね、商品・サービスを検討してもらうことが多いです。そこで、相手を納得させる「プレゼンテーションスキル」や、会議をスムーズに進行させる「ファシリテーションスキル」が活かせます。
また、ルート営業の場合、商品・サービスの利用は安定しているため、取引先との関係構築が重要です。そこで、相手に有益な情報を伝えるための「情報収集力」や、相手からの信頼を高めるための「対応力」が活かせるでしょう。
マルチに活躍する人材を育成できる
ポータブルスキルは、汎用性の高いスキルのことです。社員がポータブルスキルを身につけていれば、例えば社内異動が必要となり、これまでの経験と全く異なる部署に配属となっても、活躍してもらえます。
また、ポータブルスキルには「マネジメント能力」「リーダーシップ」も挙げられ、キャリアアップによって管理職となった際にも、スキルを活かして部署をまとめてくれるでしょう。
人材配置は企業にとって最も難しい問題の一つです。社員がポータブルスキルを獲得していれば、どこでも活躍してくれるからこそ、スムーズな配置が可能となります。
リーダー候補を育成できる
組織にはリーダーが必要です。一般的にはリーダーに求められるものは多いですが、それらはまとめて「ポータブルスキル」と呼ぶことができるのではないでしょうか。
例えば、上で挙げた「マネジメント能力」「リーダーシップ」はもちろん、「計画力」「進捗管理能力」が必要なことは、想像に難くないでしょう。関係者が多い組織のリーダーに必要な「交渉力」も、ポータブルスキルの一つです。
そのように、社員にリーダーの役割を期待するのであれば、ポータブルスキルを育むことで安心して任せられるのです。
生産性の向上が期待できる
どのような環境でも活躍できる人材が増えることで、企業がどのような状況となっても対応できるようになっていくでしょう。そうなれば、例えば「原価高騰」など企業にとって不利な状況でも、高い生産性を上げることができるのです。ポータブルスキルを獲得した社員の活躍は、事業成長や企業価値の向上につながりやすいです。
ポータブルスキルの活用方法
ここまで、ポータブルスキル育成の必要性を述べてきましたが、実際にどのように反映していくのかイメージがつかない方も多いでしょう。この章では、ポータブルスキルの活用方法をお伝えします。
採用基準の適用
活躍人材を求める中で、求職者のポータブルスキルを採用基準とする方法があります。中でも重視したいスキルを定めて基準とすることで、スムーズな判断が可能になります。採用基準については別記事にて詳しくご紹介しているため、よろしければご覧ください。
「採用基準とは? 設定方法やポイント、注意点、人材の適切な見極め方を紹介」の記事はコチラ
ポータブルスキルは履歴書の資格欄には書けないため、面接を通じた見極めが重要です。例えば「コミュニケーション能力」「協調性」などいくつかピックアップし、面接後に求職者のスキルを点数化すると判断しやすいでしょう。
人事評価制度への組み込み
ポータブルスキルの考え方は、評価制度を見直すときにも役立ちます。例えば「グレード別に必要なポータブルスキルを定める」「ポータブルスキルを評価項目に設定する」「ポータブルスキルをもとに被評価者に評価を説明する」といった活用が可能です。
研修制度の見直し
社員のポータブルスキル向上にはやはり、育成を行なうことが必要です。その手法の一つとして、身につけてほしいポータブルスキルに特化した研修を実施するのはいかがでしょうか。例えば、近年多くの企業が導入しているのが、「ロジカルシンキング」を磨く研修です。社員が物事を論理的に考えるようになることで、本質的な課題解決が行なわれていくでしょう。
研修を行なう人的リソースがない場合、外部研修機関やeラーニングシステムの利用もおすすめです。ポータブルスキルの獲得を支援するeラーニングシステム『エンカレッジ』の詳細はコチラをご覧ください。
まとめ
採用市況の「売り手市場」が続き、採用難となっている今、どのような職場でも活躍できる「ポータブルスキル」に注目が集まっています。上述の通り、転職が当たり前となった若手人材の中には、ポータブルスキルの獲得を重視する方も多いです。
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