退職代行を利用された場合の流れは?企業側の対応や退職の防ぎ方まで解説
退職代行とは民法に基づいて、労働者の意思表示を、代理人が代行するサービスです。最近はメディアで取り上げることも多く、認知度の上がった退職代行。代行会社や利用者も増加している今、企業にとって身近な話題だと言えるでしょう。
そこで、この記事では「退職代行を利用された際、企業が取るべき対応」や「今後、従業員の退職を防ぐための対策」をご説明します。
▼本記事をより分かりやすく解説した「退職代行の企業の対処法」の資料を以下から無料でダウンロードいただけます▼
目次[非表示]
- 1.退職代行を利用されたとき企業は拒否できるのか?
- 1.1.法的な見解
- 1.2.退職代行を拒否できる例外事由
- 2.退職代行を利用されたときの対応
- 2.1.退職代行の身元確認
- 2.2.従業員本人の依頼か確認
- 2.3.必要書類の送付
- 2.4.退職日を決定
- 2.5.退職日までの扱い・退職事由を検討
- 2.6.業務の引継ぎを依頼
- 2.7.退職届の送付を依頼
- 2.8.貸与品の返還を依頼
- 3.退職代行を利用されたときの注意点
- 4.今後の退職を防ぐためには
- 4.1.退職リスクのデータ計測
- 4.2.意見を伝えやすい企業風土の醸成
- 4.3.「アルムナイ」制度の導入
- 4.4.従業員エンゲージメントの向上
- 4.5.定着人材の採用
- 5.まとめ
退職代行を利用されたとき企業は拒否できるのか?
昨今、よく耳にする退職代行サービス。企業としては「従業員本人以外の申し出は信用できない」「今までお世話になったのに、自分で退職の相談をしてこないのはどうなのか」と、受理しないことを考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。ここでは、退職代行を利用された場合、企業は受理を拒否できるのかご説明します。
法的な見解
退職代行による退職の申し入れが、法令や就業規則を遵守しており、適切な手段で行なわれていた場合。企業は原則、退職手続きに対応しなければなりません。それは、民法で以下のように定められているためです。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。
民法第627条
企業としては納得できないところがあるかもしれませんが、退職代行サービスの利用は法的な見解では有効な方法です。そのため、退職代行を利用された場合、企業は法令や就業規則の規定に反しているかどうかを精査し、所定の退職手続きを行なう必要があります。企業側の対応については、次章で詳しくご紹介しますのでぜひご覧ください。
退職代行を拒否できる例外事由
退職代行は原則、拒否できるものではありません。ただし例外もあるため、退職代行を利用された場合、まずは以下でご確認ください。
- 本人からの依頼でなかった場合
第三者の嫌がらせなどで、従業員本人以外から依頼が行なわれるケースです。後ほど詳しくご紹介しますが、本人確認の書類の写しなどを確認する必要があります。
- 有期雇用社員の場合
上記の通り民法に定められている範囲は、正社員や無期雇用社員など「期間の定めのない雇用契約」ですが、有期雇用社員は「ある一定の期間まで働くことを前提とする雇用契約」です。有期雇用社員の雇用期間中は一方的に辞めることはできないというのが通釈となっています。
ただし、“やむを得ない事情”がある場合、退職が認められる可能性があります。例えば「会社からハラスメントを受けている」「給与が未払いとなっている」「親の介護をしないといけなくなった」といった場合です。民法にも以下のように定められています。
当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。
民法第628条
退職代行を利用されたときの対応
従業員が退職代行を利用し、企業の対応に問題があったときには、法律違反、訴訟問題、企業イメージの毀損といったリスクも考えられます。そのため慎重に対応を進めていかなければなりません。ここでは、退職代行を利用された場合の具体的なステップを確認していきます。
退職代行の身元確認
退職代行は、代理人によって「退職意向を伝えることのみできる」「退職条件の交渉まで行なうことができる」という範囲が、法的に決められています。今後の対応を「誰に」行なうのか把握するために、まずは代理人の身元を確認しましょう。
- 弁護士
代理人が弁護士資格を有している場合、退職の意思を代わって伝えるだけではなく、有休取得など退職条件の交渉が可能です。
- 退職代行ユニオン
初めて名前を聞く方も多いかと思いますが、退職代行ユニオンは、合同労働組合の一つです。合同労働組合とは、会社外の労働組合のことであり、正社員・非正規社員どちらも加入できます。労働組合がない中小企業の従業員や、企業別組合から排除された従業員などを、一定地域ごとに組織している労働組合です。
労働組合には団体交渉権が認められているため、退職代行ユニオンが代理人の場合、例えば「退職日の調整」「未払い賃金の支払い請求」など、直接の交渉も可能です。しかし交渉がうまくいかず、裁判になったときには、弁護士のように代理対応することはできません。
- そのほか
上記以外の代理人として退職代行サービスを行なう民間企業が挙げられますが、法的に認められているのは、「従業員本人に代わり、離職届を提出する」ことのみです。弁護士や退職代行ユニオンとは異なり、従業員本人に代わって条件交渉を行なうことはできません。もし交渉してきた場合には、弁護士資格の有無を確認してください。
従業員本人の依頼か確認
前段で述べた通り、退職代行は本人以外が依頼しているケースも考えられます。「依頼人に提出した委任状」「印鑑登録証明書のコピー」の提出を代理人に依頼しましょう。
必要書類の送付
「離職票」「雇用保険被保険者証」「退職証明書」など、従業員本人へ渡す書類はできる限り早く作成し、送付しましょう。
離職票の作成には本人の署名が必要なため、代理人を通じて書類を従業員に送付し、署名の上返送してもらわなければなりません。必要な書類の作成がスムーズに進まないときには、事務手続きのみ、従業員本人との直接のやり取りを提案しても良いかもしれません。
ただし、離職票などは退職日以降の発行になり、1ヶ月程度かかることもあります。退職代行を利用した従業員としては書類がきちんと届くか不安を感じ、ハローワークに相談することも考えられます。書類発行のスケジュールはあらかじめ伝えておきましょう。
退職日を決定
就業規則や雇用契約書、民法を確認し、退職日を検討します。企業と従業員で合意があれば、両者の合意によって決まった日が退職日となります。合意できない場合でも、法律に基づくと、2週間以上前に退職の意思を伝えていれば退職できることになっています。これは、就業規則で1ヶ月前の退職申告が必要などと定めていた場合でも同様です。
そのため一般的には、正社員であれば退職意向の伝達から最短2週間、契約社員であれば契約満了日を退職日とすることが多いです。なお、もし従業員から「退職日を早めたい」という話があった場合には、本人の意思によるものなのか確認しながら対応を進めていきましょう。
退職日までの扱い・退職事由を検討
従業員に出勤意向があれば、退職日までは従業員として仕事をしてもらったり、引継ぎを行なってもらったりということが可能です。しかし、退職代行を利用されている場合、これまで同様に出勤してもらうことは難しいでしょう。
そのため、実際には有給休暇や欠勤として扱うことが多いです。有給休暇は原則、従業員が申請して取得する“権利”です。委任状などで「有給休暇を申請する」という意思を従業員に確認できた場合、有給休暇として扱いましょう。
また、退職事由は「自主退職」なのか「懲戒解雇」なのか検討します。ほとんどのケースでは「自主退職」となりますが、解雇事由に該当する場合のみ「懲戒解雇」とすることが認められています。例えば、退職日までに出勤の必要があり、無断欠勤が続いているときなど。しかしその状況を理由に懲戒解雇とした場合、解雇無効と判断されることもあります。
退職代行を利用されている状況から推測すると、企業側の事情による退職の可能性も考えられます。従業員に賃金未払いやハラスメントが理由だと主張された場合は、条件交渉の一環として企業側も確認し、事前に問題を解決しておくことが必要です。
業務の引継ぎを依頼
業務の引継ぎがなされなかった場合、クライアントや他の従業員に迷惑がかかることもあります。そのため企業としては、業務の引継ぎを依頼することになるでしょう。特に、退職する従業員のみが担当していた業務は対応してもらわなければ…と思うはずです。
しかし法律上は、退職時の引継ぎについて義務や責任があるとはなっていません。例えば、就業規則に退職時の引継ぎを定めており、引継ぎを依頼したにもかかわらず、従業員から何の返答もない場合。懲戒処分や損害賠償請求を行なうことも可能ですが、これらの主張は認められない可能性が高いです。
企業にとって業務の引継ぎは優先度が高いところかと思いますが、進め方に気を付けなければなりません。
退職届の送付を依頼
法律上、「退職届」の提出は必須とはされていません。退職代行サービスによる退職意思の伝達が従業員本人の依頼であると確認できた場合、最初の意思表示の日時を基準に手続きを進めていきます。
しかし今後のトラブル回避のために、本人自筆の退職届を提出してもらう方が良いでしょう。そうすることで、従業員の意思や正確な退職理由を確認することが可能です。退職届の提出依頼は上記の通り法的な効力があるものではないため、あくまで協力要請として行ないます。
貸与品の返還を依頼
業務で使用していたPCやスマホ、鍵、社員証、名刺など、貸与物がある場合は返却方法を決めます。退職代行を利用された場合、レターパックや宅急便を使うことが多いです。
退職の意思伝達を受けたらすぐに、返却リストを作成しましょう。返却期限と送り先を提示し、メールや書面で従業員本人や代理人に伝えます。また、オフィスに本人の私有物がある場合はその返却についても確認しましょう。
退職代行を利用されたときの注意点
上記では退職代行を利用された場合の対応ステップを解説してきましたが、その際にいくつか気を付けるべきポイントがあります。この章では対応時の注意点をお伝えします。
契約内容の確認
- 雇用の際に締結した「雇用契約」「労働契約」
- 雇用契約に期間の定めがあるかどうか
- 就業規則における退職日の記載
代理人から提示された退職希望日を受け入れるか判断する際には、上記事項を確認します。例えば就業規則に「退職の旨は2ヶ月前までに申告」とある場合、その定めをもとに退職時期の交渉を行なうこともできるでしょう。
なお、その際に注意したいのは民法において、無期雇用だった場合「意思表示から2週間で退職できる」とされていることです。有期雇用だった場合、原則として契約期間の満了時、あるいは両者の合意があれば退職となります。
このような法律と就業規則、どちらを優先すべきかは裁判例も様々であり、解釈が分かれています。企業側は頑なに主張するのではなく、依頼する形で進めるのが無難でしょう。
有休の取り扱い
未取得の有給休暇があり、従業員が有休取得を希望している場合、企業側は取得させなければなりません。労働基準法第39条により、従業員に有休取得の権利が与えられているためです。退職代行サービスを利用しているか否かは関係がありません。
企業としては「退職代行を利用するなんて…」という思いから、有給休暇分の賃金を支払わずに退職させてしまえば、のちに損害賠償請求を行なわれる可能性もあります。感情的な対応によって対応事項が増えたり、企業イメージが損なわれたりというリスクがあることをご理解ください。
退職希望者の尊重
- 従業員本人への連絡はやむを得ない場合に留める
退職代行を利用された場合、従業員の心境としては「会社と直接やり取りをすることを避けたい」という意図があると考えられます。退職まで円滑に進めていくために、従業員本人への連絡はなかなか応答がない場合、依頼内容の確認ができない場合などに留めましょう。これは、違法な退職代行サービスであった際にも同様です。
- 従業員本人に連絡したい場合、まずは代理人に依頼する
弁護士資格を有する代理人であれば、原則代理人が窓口となって交渉を行ないます。そのため代理人を無視して従業員本人にメッセージを送るなど、脅迫とも取られる行為は避けてください。まずは代理人に話をした上で、必要があれば従業員本人と直接話ができるように打診するようにしましょう。
- 従業員本人への連絡はできる限りメールや書面に
電話での連絡は避けましょう。代理人から従業員本人に対応しなくて良いと伝えている可能性がありますし、そうでなくても冷静な対応が難しいかもしれません。従業員本人が対応しやすいメールや書面で伝えましょう。その際には「依頼内容を確認してもらえるまで退職手続きを進められない」など、対応を求める理由も丁寧に説明しておくと良いです。
誓約書の提出依頼
企業としては「秘密保持誓約書」や「競業避止義務誓約書」などへの署名を求めたいところでしょう。そのほか一般的な退職手続きとして「健康保険の切り替え手続き」「住民税の納め方の確認」「雇用保険の手続きに必要な書類の発行」「離職票の交付」なども挙げられます。
いずれも、自主的に応じてもらえるよう、円満に手続きを進めましょう。民法では、会社の合意がなくても退職が可能であると定められているためです。上記の退職手続きを行なう代わりに、各種誓約書の作成を要求してはいけません。
今後の退職を防ぐためには
これまで退職代行を利用された場合に必要な対応や注意するポイントをお伝えしてきました。企業側の損失を考えれば、社員が退職しないよう、そして退職の際には相談してもらえるように、事前に対策しておくと良いでしょう。ここからは離職防止策をご紹介します。
退職リスクのデータ計測
退職を防ぐ上で大事なことは、社員の悩みを見逃さないことです。特に入社してすぐは悩みがっても「誰に相談して良いかわからない」「相談の仕方がわからない」となる社員も決して少なくないでしょう。
そこでおすすめなのが入社後の離職リスク可視化ツール『HR OnBoard』です。毎月のWebアンケートで、各社員のコンディションを可視化・データ化。悩みを抱える社員に対して、担当者が行なうべきアクションを提案する機能があるため、フォローに入りやすいです。
意見を伝えやすい企業風土の醸成
上司と部下の間で何でも気軽に話し合うことができる文化をつくることが重要です。退職の原因となりうる悩みを共有できる職場であれば、不安の解消や問題の解決につながるかもしれません。日頃から声をかけるようにする、定期的な面談を行なうなど、コミュニケーションの活性化を図りましょう。また、上司に相談できない悩みがある方も少なくないため、相談窓口を設けるのも有効です。
社員が退職の意思を伝えることに不安を感じている場合、納得できる形で退職できるか懸念していることも多いです。その不安から、退職代行の利用に至るのです。反対に、相談できる環境があれば、事前に退職意向を話してもらうことができ、より円満に退職してもらえるでしょう。
「アルムナイ」制度の導入
次にご紹介するのが、一度退職・転職した元従業員を再雇用する「アルムナイ」制度です。以前働いていた従業員であれば、仕事内容や企業の雰囲気、人間関係などを理解しているため、入社後のミスマッチによる退職を防ぎやすいです。導入時のポイントなどは以下の記事をご覧ください。
▼「アルムナイ制度で即戦力を採用! メリット・デメリットや導入事例を解説」の記事はコチラ
従業員エンゲージメントの向上
退職を防ぐためには、従業員の高いエンゲージメントが欠かせません。エンゲージメントとは「従業員が企業に対してどれくらい貢献したいと考えているか」を表す言葉です。エンゲージメント向上の取り組みは様々なものがありますが、福利厚生の改善や評価制度の構築など、従業員の“頑張りに応える姿勢”は大事になってくるでしょう。エンゲージメントを高める具体的な方法については別記事で紹介していますので、よろしければご覧ください。
▼「従業員エンゲージメントとは?企業における重要性、10の施策も解説」の記事はコチラ
定着人材の採用
退職を防ぐ根本的な解決策として、定着する人材の採用が挙げられます。求人専門のコピーライティングを4年間手がけてきた筆者から、入社後の定着まで見据えた求人作成についてご説明します。
企業が新しく入社する方に定着してほしいと考えている場合、仕事の魅力と厳しさの両方を伝えることが大切です。厳しい面を伝えることでイメージ低下を懸念されるかもしれません。しかし伝え方に配慮していれば、むしろ「入社後に欠かせない情報を正直に開示しており、人を大切にしている会社だ」という印象を与えることができるでしょう。入社後定着につながる採用が、今後の退職防止に必要です。
まとめ
サービスや利用者が増えている退職代行サービスは、企業にとって懸念の多い存在でしょう。しかし、そもそも退職を防ぐ姿勢と取り組みがあれば、心配はもう不要です。
そこで、退職しない=定着する人材の採用を行なうにあたり、『エン転職』の利用がおすすめです。エン・ジャパンが「入社1年以内の離職率」に関する調査を行なったところ、『エン転職』経由の入社者は、他サイトより離職率が半分以下であることが判明しました。
さらに、エン・ジャパンでは営業とは別に、取材専門の「ディレクター」と求人専門の「コピーライター」がおり、「定着人材の定義付け」「定着人材へのアピール」を提案することが可能です。ぜひお気軽にご相談ください。
ほかにも『エン転職』には採用を成功に導く様々な特徴があります。『エン転職』の料金表・パンフレットダウンロード、サービスの詳細確認はこちらから行なえますのであわせてご覧ください。
▼エン転職のサービスページ
▼本記事をより分かりやすく解説した「退職代行の企業の対処法」の資料を以下から無料でダウンロードいただけます▼